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投資

投資家が知っておきたい「起業・思考力」の本質 — エリート像の罠と別解力

投資家として資金を投じる際、私は「人」にまず目を向ける。事業モデルや市場環境も大事だが、起業家の思考力・胆力・再現性こそが成功のカギを握るからだ。今回、ダイヤモンド・オンラインに掲載された2本の記事――「偏差値エリートは人生に『安定』を求めがち」 と 「優秀でフラットな人ほど、苦労する」投資家が語る起業家の特徴――を読み解きながら、投資家としてどう起業家を評価すべきか、私自身の考えも交えて整理してみたい。

“偏差値エリート”という幻想と「安定志向」の罠

成田修造氏の記事では、「偏差値エリート」の多くが人生に「安定」を求めがちだと指摘されている。確かに日本社会では、高学歴・安定した企業・終身雇用が成功モデルとされてきた。しかしその価値観で動く人は、リスクを極端に嫌う傾向があり、挑戦的なベンチャーの世界では決断力や変化対応力に欠けることが多い。スタートアップの世界では、「圧倒的成長」を目指すために、既存より「何倍も便利・何倍も面白い」価値を出せるかが問われる。そのための仮説検証、逆境対応、不確実性への耐性が必須だ。安定を求めすぎるエリート型のマインドは、むしろ思考の自由度と革新性を縛る鎖になる。
投資家視点で言えば、過去の成功体験・ラベルに囚われている起業家には注意したい。どれだけロジックが優れていても、変化遇に脆弱な人材はスタートアップの荒波には耐えにくい。

投資家が重視する「別解力」と再現性

もう一方の記事では、起業家を見る投資家の目線として、ANRIの佐俣アンリ氏が語る「別解力」が紹介されている。「真っ当なことを、真っ当にできる人」かどうかをまず見極めるといい。奇抜なアイデアばかり追う人より、基礎を抑えつつ自分なりの解(=別解)を出せる人に投資する、という視点だ。
また「失敗力」も注目ポイントとして語られている。単なる失敗経験ではなく、「同じ失敗を繰り返さないか」を見ている、という指摘。起業は揺らぎの連続だからこそ、反省・修正を短期間でできるマインドが求められる。
投資家として、私は起業家を評価する際、この「別解力」と「学習/反復力」の2軸を重視したい。市場条件が変化しても自ら仮説を変えられる人は、持続可能な事業を創りやすいと考えるからだ。

最後に

ここまでを踏まえて、投資家として自分がどうありたいかを示しておきたい。

  1. 人を見る基準を複数化する
     学歴・過去経験だけで判断せず、思考スタイル、失敗からの学び方、変化対応力を組み合わせて評価したい。
  2. 小さな仮説検証を支援する
     最初から大きな勝負を求めず、小さな実験フェーズを許容する資金提供や伴走支援が重要だ。変化に応じて仮説を変えやすいようにする。
  3. “挑戦できる安心感”を与える構造づくり
     投資先に対して、ある程度の安全網(失敗許容度、再チャレンジ支援など)を持たせてあげたい。起業家はリスクを取らねばならないが、無理な賭けに追い込むのは危険だ。
  4. 対話とフィードバックを重視する
     起業家側も思い込みを持ちやすい。投資家として、指摘・議論できる立ち位置をとることで、双方とも成長できる。

私自身、これまで複数のスタートアップやベンチャー企業を見てきたが、最も成功するケースは「仮説を壊す勇気」を持ち、「学びなおし」ができる起業家と出会った時だった。最初のビジョンを100%正解と考えない柔軟性が、最後には大きな差をつくる。